生き物たちの聖域を守りたい 海んちゅの約束
Interview report from 沖縄 カモメのジョナサン
沖縄本島の中部、東海岸に位置するうるま市。「カモメのジョナサン」は、勝連半島と平安座島を結ぶ海中道路の途中にあるシーカヤックとSUPのツアーガイドショップです。代表の玉城聖吏さんは、沖縄の島を知り尽くした海んちゅ。観光客で賑わうビーチとは無縁の自然の浜の真実を語っていただきました。

生まれながらの海んちゅが辿り着いた真実。
沖縄には無人島を含む約160の島々があります。冬場の空気が澄んだ日は遠くの島影がうっすら見える、それがだいたい40kmの距離。500年ぐらい前の沖縄の島人たちは、帆掛サバニという手作りの丸木舟に帆を立てて、風向きを見ながら手漕ぎで島から島へと渡り、物資を運んでいました。
「沖縄で玉城という名字は、糸満で海を生業にしている家系も多いんですよ。うちも爺ちゃんが漁師で、婆ちゃんは刺身屋を50年。父はダイビングショップを経営していました。僕も幼稚園生の頃から潜っていて、高校生の時にはアシスタントインストラクターの資格をとって、父を手伝っていたんです。ずっと素潜りとダイビング。生活そのものですから、海が好きなのは当然です。今は1年の350日、ほぼ海にいるのですが、ある時、人類はどこから来たんだ?ということに関心が向きました。帆掛サバニは、1日に100km以上進めて外洋にも漕ぎ出せる、沖縄の原始的な伝統航海術です。そういう自然と人力任せに憧れて僕はシーカヤックを始めました。エンジンなしで50km以上漕ぎますし、島づたいに沖縄一周も。それでよく、無人の浜に辿り着くのですが、ごみだらけなんですよ。海はとてもきれいなのに。誰も行かない浜だから、ごみ溜まりのことは僕しか知らない。環境問題をアピールしているわけでもないし。でも、見て見ぬふりはできないから、いつも一人で淡々とごみ拾いをして帰るんです。海は僕の庭なので。家の玄関が汚れていたら、掃除するでしょう?」

生き物たちのサンクチュアリはごみ溜まり。
「カモメのジョナサン」は、専用のマナティバッグをお客さんにレンタルして海ごみ拾いに参加してもらうビーチクリーンプロジェクト「マナティ」に賛同、ホストをしています。代表の金城由希乃さんの声掛けで“マナティ・パートナー”になりました。彼女は、玉城さんがカヤックツアーで行く秘境の浜のビーチクリーン活動をSNSで知り、協力を募ったそうです。
「宮城島にカフーバンタと呼ばれる崖があって、沖縄の言葉で幸福の崖という意味のパワースポットとしても知られています。その眼下にある入江の海は藍色やコバルトブルー、エメラルドグリーンのグラデーションで、本当に美しい。浅瀬は水深30cmぐらいしかないから、船は近づけません。陸路は無く、喫水の浅いカヤックでしか近づけない。そういう秘密の浜がいくつもあるんです」
浜比嘉島沖の無人島は、ベニアジサシなどの絶滅危惧種の鳥たちの繁殖地になっていたり、ウミガメが産卵に来る。人の踏み入れない場所では、豊かな生態系が育まれています。
「僕は幼い頃からヤドカリが大好きで。秘境の浜にいるヤドカリの巻貝は、デザインがかっこいいんですよ。でも、観光客で賑わうビーチのヤドカリは、人が食べたサザエの殻とか、カタツムリの抜け殻に入っていて、かっこ悪い。人間のせいなんですよ。きれいな巻貝を拾って持って帰ってしまうから。ヤドカリだって希少種なのに、家を奪われて仕方なく、カタツムリの殻に収まっている。薄い殻でバイ菌だらけだから、すぐに死んでしまうのに。ついこの前は、ペットボトルのキャップに入ったオカヤドカリがいました。ベニアジサシの繁殖地も海ごみのごみ溜まりと隣り合わせです。大量のごみのすぐ横で鳥たちが巣を作っている。人がいない浜は生き物たちの聖域なのに、僕たちが出したごみが絶え間なく流れ着きます。掃除もされないから、どんどん溜まってごみで溢れかえる。それが散乱して、風向きでどこかに流されていく。希少種の生き物と海ごみがまるでセットのように、どれだけ片付けても切り離せない。ビニール袋とか、スチロールパックとか、人間は何でも包み過ぎるからごみが出るんです。服だって、着れなくなるまで着れば良いのに、流行を追い、買っては捨てる。海を知り好きになれば、そんなことできなくなりますよ。企業だけが悪いわけじゃない。我々消費者の意識の問題なんです」



環境問題も、防犯対策も。海を見守る「UMIMIRU」。
沖縄県は観光立県。希少な自然は大切な観光資源です。しかし、多くの観光客が押し寄せ、自然破壊の元凶となるオーバーツーリズムなど、矛盾する問題も多く抱えています。
「うるま市の浜沿いの地域住民は、疲弊しています。住居の目の前のビーチで朝まで大声で騒ぎビーチパーティー、焚き火台を使用しない直火の焚き火、ゴミも置いていきます。苦情が絶えないんです。監視社会は良くないですが、このUMIMIRUのような定点観測アプリがあれば、生態系の保護だけではなく、防犯にも役立ちそうですね」
UMIMIRUは、沿岸部に設置されているモニタリングデバイス kakaxiと連動し、全国各地の浜辺の様子をスマートフォンなどでいつでも気軽に見れるアプリ。海ごみ削減に繋がる新ビジネス創出を目的に日本財団などが支援する「プロジェクト・イッカク」の産学連携チーム「Debris Watchers(デブリス・ウォッチャーズ)」が開発しました。うるま市の海中道路の起点に設置されたkakaxiからも、無人の浜辺に漂着する海ごみが映し出されたデータが送信されています。UMIMIRUはその名の通り、海を見守る手のひらサイズの観測システムです。
「監視社会は良くありませんが、人の目は抑止力になります。一般人が踏み込めない場所で、毎日何が起きているのか。人ごとでは済まされない、見て見ぬふりをしてはいけない問題を、みんなが共有する。子供たちにもちゃんと教える。知れば、楽しくなって興味が湧いてきますし、気づきを与えることで、違う価値観も生まれます。ちょっと前までは、カヤックツアーでごみを拾いにいくなんて、おかしいんじゃないの?と思われていました。タダで拾うの? お弁当と飲み物ぐらいは用意してね、なんて言われてぺこぺこ頭を下げたり。それが最近、一大ムーブメントのようにみんながSDG’sと言い出して、潮目がガラッと変わった。ビーチクリーンは素敵で、おしゃれだって(笑)。マイボトルやマイバッグも、20年前は誰も持っていなかったのに、普通のことになった。意識なんて、簡単に変わるんですよ。真実に目を向ければ、大事にすれば、地球はちゃんと、応えてくれますよ」

この海ごみは、どこから来たんだろう? 変えてはいけないものと変わっていくもの。 ずっと続けている習慣は、どうなんだろう? 当たり前の価値観に疑問を持ち、自ら体感して見極めることが大事です。生物多様性への意識が変わる知の冒険を!

カモメのジョナサン
代表 玉城聖吏
Text by Hisako Iijima